認知行動療法は、うつ病や不安障害などへの効果が科学的に示されている心理療法です。
しかし、すべての人に万能というわけではなく、その時の心身の状態や環境によっては、かえって負担となり逆効果になることもあります。
この記事では、認知行動療法が向かない人の特徴や状態、そして合わないと感じたときに検討できる他の選択肢について解説します。
はじめに|認知行動療法は「考え方のクセ」に働きかける心理療法
認知行動療法とは、現実に起きている出来事をどのように受け止めるかという「認知」に働きかけ、心のバランスを取ることを目指す心理療法です。
私たちは、ある出来事が起きたときに無意識に特定の考え方をする「考え方のクセ」を持っています。
そのクセが気分の落ち込みや不適切な行動につながっている場合に、その考え方の偏りを修正していくのが特徴です。
また、その考え方のクセとひもづいている行動パターンを変えてみる方法を試す場合もあります。
そのため、自分自身の考えや感情を観察し、記録するほか、行動してみて効果を検証するといった主体的な作業が求められます。
この能動的な性質から、治療に向いている状態とそうでない状態があります。
リワークで認知行動療法を受けたい方へ
リワークとは、休職中の方や退職している方が職場復帰を目指すために通所するリハビリテーション施設です。
リワークでは、メンタルヘルスの不調を繰り返さないために、心理学やコミュニケーションに関係するプログラムを受けられます。
ベスリのリワークでは、認知行動療法プログラムを実施しています。
集団プログラムとして実施しているため、カウンセラーだけではなく、より様々な客観的な見方を取り入れられるメリットがあります。
また、認知行動療法を自身のメンタルケアに取り入れたいという方には、公認心理師の資格を持つスタッフが専門的な助言を行っています。
あなたのせいじゃない?認知行動療法が向かない・逆効果になる5つの状態
認知行動療法がうまくいかないとき、「自分の努力が足りない」「性格に問題がある」と自身を責めてしまうかもしれません。
しかし、効果が出にくいのは本人の資質の問題ではなく、治療を受けるタイミングや心身のコンディションが整っていないことが原因である場合がほとんどです。
ここでは、認知行動療法が逆効果になり得る5つの状態を解説します。
記録し、振り返りをするための気力やエネルギーが不足している
認知行動療法では、自分の考えや感情を客観的に振り返り、記録するという作業が必要です。
これらの作業は、精神的なエネルギーを大きく消耗します。
心が疲れ切って「脳のバッテリーが切れている」ような状態では、振り返ること自体が大きな負担になります。
このようなときに無理に取り組もうとすると、うまくできない自分を責めてしまい、かえって自己肯定感を下げてしまう恐れがあります。
まずは休息を取り、思考に取り組めるだけのエネルギーを回復させることが先決です。
休養や薬物療法が必要なほど、心身の症状が重い
うつ病の急性期のように症状が重い場合、気分の落ち込みや思考力の低下が著しく、物事を冷静に判断することが非常に困難です。
このような状態で自身の考え方の偏りを修正しようと試みても、ネガティブな思考から抜け出せず、かえって症状を悪化させるリスクがあります。
まずは専門医の指導のもとで十分な休養を取ったり、薬物療法によって症状を安定させたりすることが最優先です。
心身の状態が回復して初めて、認知行動療法に取り組む土台ができます。
パワハラなど、今すぐ離れるべきストレス環境下にいる
認知行動療法は、個人の内面にある「考え方」に焦点を当てますが、問題の原因が外部環境にある場合は適用が難しいことがあります。
例えば、現在進行形で職場のパワハラや家庭内での虐待など、過酷なストレスにさらされ続けている状況が挙げられます。
このような場合、個人の考え方を変えることで状況を乗り切ろうとすると、「自分が我慢すればいい」「自分の捉え方が悪いのだ」と不適切な自己責任論に陥りかねません。
最優先すべきは、まずそのストレス環境から物理的に離れ、安全を確保することです。
過去のつらい体験と向き合う心の準備がまだ整っていない
治療の過程で、問題の背景にある過去の出来事を振り返ることがあります。
特に、トラウマとなるような非常につらい体験を扱う場合、それと向き合うには相当な心の準備と、治療者との間に築かれた安全な信頼関係が不可欠です。
心の準備が整っていない段階で無理に過去の傷に触れると、当時の感情が再燃したり、フラッシュバックを引き起こしたりするなど、かえって心を不安定にさせてしまう危険性があります。
焦らず、自分自身のペースで向き合えるタイミングを待つことが重要です。
治療者と二人三脚で取り組む意欲を持つことが難しい
認知行動療法は、治療者が一方的に治療を行うのではなく、クライエントと治療者が協力して問題解決を目指す「二人三脚」のアプローチです。
そのため、治療者との信頼関係を築き、一緒に取り組んでいこうという意欲が効果に大きく影響します。
治療者に対して不信感があったり、そもそも「良くなりたい」という気持ちが持てないと、治療のプロセスがうまく進みません。
まずは安心して話せる治療者を見つけ、治療への動機づけを高めていくことが前提となります。
一方で、認知行動療法の効果を期待できる人の特徴
ここまで認知行動療法が向かない状態について解説しましたが、逆に取り組むことで効果を期待できる人の特徴も存在します。
これから挙げる特徴は、あくまで一般的な傾向であり、これらに当てまらないからといって効果がないわけではありません。
自分自身の状態を客観的に見るための、一つの目安として参考にしてください。
問題解決のために主体的に取り組む意欲がある
認知行動療法は、カウンセリングルームで話を聞いてもらうだけでなく、日常生活の中で課題(ホームワーク)に取り組むことが中心となる治療法です。
そのため、「自分の問題を何とかしたい」という強い気持ちがあり、治療者と協力しながら能動的に課題に取り組める人は、治療効果が出やすい傾向にあります。
他人任せではなく、自分自身で変化を起こそうとする主体的な姿勢が、認知行動療法には向いています。
自分の考えや感情を言葉にして整理することに抵抗が少ない
治療プロセスでは、その時々に頭に浮かんだ考えや、それに伴う感情を言葉で表現し、記録する場面が多くあります。
自分の内面で起きていることを言語化し、客観的に見つめ直す作業に大きな抵抗がない人は、スムーズに治療を進めやすいでしょう。
考えを文章に書き出す、あるいは言葉で説明することが比較的得意な人は、認知行動療法の技法が向いていると考えられます。
日常生活の中で課題(ホームワーク)を実践する時間を確保できる
認知行動療法の効果は、セッションで学んだことを実際の生活で試す「ホームワーク」の実践によって大きく左右されます。
例えば、日々の出来事や感情を記録するコラム法を実践したり、新しい行動パターンを試してみたりする時間が必要です。
多忙すぎてホームワークに取り組む時間的・精神的な余裕がないと、なかなか効果を実感しにくいかもしれません。
日常生活の中に、意識的に治療のための時間を確保できる人は向いています。
さらに認知行動療法について詳しく知りたい方へ
ベスリのリワークのホームページでは、認知行動療法についてさらに詳しい情報をのせています。
特にうつ病や適応障害で休職中の方や再発しないか悩んでいる方に読んで頂きたい記事です。
気になる方はぜひご覧ください。
・うつの再発予防に効く認知行動療法とは?
https://biz-rework.jp/i-11/
・リワークで行っている認知行動療法について
https://biz-rework.jp/l-13/
認知行動療法が合わないと感じたときに検討したい他の選択肢
認知行動療法が唯一絶対の治療法ではありません。
もし「自分には合わない」「続けていてつらい」と感じるのであれば、無理に固執する必要はないのです。
心身を回復させるためのアプローチは多岐にわたります。
ここでは、認知行動療法以外の選択肢をいくつか紹介します。
まずは十分な休養を取り、ストレスの原因から物理的に離れる
あらゆる治療法や対処法を試す以前に、心身のエネルギーが枯渇している場合は、何よりもまず休養が必要です。
思考を巡らせたり、新たな行動を起こしたりする気力が湧かないのは、心が休息を求めているサインかもしれません。
可能であれば仕事を休んだり、家事の負担を減らしたりして、意識的に心と体を休ませる時間を作りましょう。
ストレスの原因が明確な場合は、その環境から物理的に距離を置くことも有効な対処法です。
医師の診断のもとで薬物療法を検討する
気分の落ち込みや不安、不眠などの症状が日常生活に支障をきたすほど強い場合、薬物療法が有効な選択肢となります。
抗うつ薬や抗不安薬などは、つらい症状を和らげ、心の負担を軽減する助けになります。
これにより、心理療法に取り組めるだけのエネルギーが回復することもあります。
薬物療法は、必ず精神科や心療内科の医師による適切な診断と処方のもとで行うことが重要です。
自己判断で服薬や中断をしないようにしてください。
対人関係療法など、認知行動療法とは異なるアプローチの心理療法を試す
心理療法には、認知行動療法以外にもさまざまな種類があります。
例えば「対人関係療法」は、うつ病の原因が重要な他者との関係性の変化にあると考え、現在の対人関係の問題に焦点を当てて解決を目指すアプローチです。
「考え方のクセ」よりも「人との関わり方」に課題を感じる場合に適していることがあります。
他にもさまざまな心理療法があるため、自分の状態や問題意識に合ったアプローチを探してみるのも一つの方法です。
「今ここ」の感覚に集中するマインドフルネスを取り入れる
マインドフルネスは、過去の後悔や未来への不安といった頭の中の思考から離れ、意図的に「今、この瞬間」の身体感覚や呼吸に注意を向ける練習です。
自分の考えや感情を評価・判断せずに、ただ観察するこのアプローチは、つらい思考の渦に巻き込まれがちな状態を和らげるのに役立ちます。
積極的に思考を分析する認知行動療法が負担に感じる場合に、静かに自分と向き合うマインドフルネスが合う可能性があります。
認知行動療法が向かない人に関するよくある質問
認知行動療法を受ける際に抱きやすい疑問について、現役の公認心理師がQ&A形式で解説します。
Q. 認知行動療法が向いていないのは性格のせいでしょうか?
性格のせいではありません。
認知行動療法が合わないのは、性格よりもその時の心身の状態やタイミングが大きく影響します。
エネルギー不足や症状が重い時期、過酷な環境下では誰でも取り組みが困難です。
まずは休養し、治療に適したコンディションを整えることが大切です。
Q. 治療を始めてみたけれど、つらいです。やめてもいいのでしょうか?
無理に続ける必要はなく、まずはその気持ちを治療者に相談することが重要です。
治療がつらいと感じる場合、無理に続けると逆効果になることがあります。
正直に伝えることで、治療の進め方やペースを調整したり、他の治療法を検討したりするなど、最適な方法を一緒に探ることが可能です。
Q. 本やアプリを使ったセルフ認知行動療法なら試しても大丈夫ですか?
症状が軽い場合は有効なこともありますが、注意が必要です。
セルフCBTは手軽ですが、専門家のサポートがないため、状態によってはリスクも伴います。
特に症状が重い場合や一人で進めるのがつらい場合は、かえって状態を悪化させる恐れがあるため、まずは専門機関に相談することを推奨します。
まとめ
認知行動療法は効果的な心理療法の一つですが、万能ではありません。
もし「向いていない」と感じたとしても、それは個人の性格や能力の問題ではなく、エネルギーの状態、症状の重さ、置かれている環境といった「タイミング」が要因であることがほとんどです。
無理に一つの方法に固執せず、まずは休養を取る、環境を調整する、あるいは対人関係療法や薬物療法など他の選択肢を検討することが、回復への近道となる場合もあります。
自分にとって最適な方法を見つけることが大切です。
ベスリのリワーク
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執筆者 星野 文弥
臨床心理士、公認心理師、EMDR Weekend2修了
EAP、ひきこもり支援センター、精神科病院などで臨床経験を積んだのち、ベスリ・リワーク大阪に勤務。臨床経験や心理学の専門知識を最大限にどう還元するかをモットーに、休職者のメンタルヘルス向上に努めている。



