コラム

身体と心のつながりに気づき、治療する

うつ病や適応障害と診断され休職中、治療に取り組んでいるはずなのに、なかなか思うように良くならないことという話をよく聞きます。
心身相関という言葉がある通り、症状は身体と心が密接に関係しあった結果、出てきます。
それでは、皆さんは自分のどこからまず治すべきか、きちんと把握できていますか?

身体、心、どこから治すべきかを把握する

心の症状を治すつもりが…

休職してようやく「自分はうつになったのだ」と自覚しても、それを「心の病気」「気持ちの問題」と思っていると、なかなか良くならないことがあります。

気持ちを晴らそうと明るいバラエティ番組や動画を観ても気分が変わらない、元気な人たちを見て観る前よりかえって落ち込んでしまったり、「何をやっているんだ自分は」と怒りが込み上がったりしてしまうかもしれません。

心の症状に対して真正面から取り組んでいるつもりなのに逆効果になってしまうのは、自分のどこを治すべきかきちんと把握できていないことから起こる現象です。

身体症状を治すつもりが…

一方で、身体の症状から治そうと思って取り組むのに、一向に改善していかない場合もあります。

例えば、休職直後に手の震えや微熱感、かゆみなどの身体症状が出ることがあります。
このとき、身体症状をなくそうなくそうとしてしまうと、何度も病院に通って薬をコロコロ変えなければならなかったり、どんどん新しい薬を加えていかなければならなかったりしてしまいます。

本人の自覚としては治療に取り組んでいるつもりであっても実際は治療が前進していかないのは、人間の心理に「回避」という機能が備わっているためです。

「回避」という人間の心理

脳には「注意」という高次機能があり、それが働くために物を見たり耳をすませたり、体内がどうなっているかに意識を向けたりすることができます。
しかし、これをずっと続けることは、脳に費やされるエネルギーは指数関数的に消費していってしまうため、一つのことへの注意を逸らそうとする働きも同時に働きます。

心や身体の症状に注意を向ける際にもそのようなことが起きるため、私たちは自分の本当に取り組むべき課題とはむしろ違った問題を「治療すべき問題だ」と認識してしまうのです。

症状の治療に困ったときの考え方

治すべきと思ったのと「異なる方面」から取り組む

そこで、治療に取り組むときは自分で治したい、治すべきだと思ったのとは異なるもう一方のところから取り組んでみましょう。
心の症状には身体から、身体の症状には心から取り組んでみるのです。

落ち込みが続いているときは身体を動かしていないため、充分な睡眠を取れていないことがあります。
そこで、家事や散歩をすると身体が適度に疲労し、睡眠が取れることで脳が回復して自然な感情を出せるようになります。

また、休職して活動量が減ると、これまで仕事や対人関係に向けて使われていたエネルギーが行き場を失い、身体に様々な感覚異常を引き起こすことがあります。
そこで、映画を観たり家族と話したりといった感情を動かす行動をすると、エネルギーがほどよく発散され、身体症状への注意が薄れ、結果的に身体症状が起こらなくなります

身体と心は互いに連動していますから、どちらか一方を治そうとしているときほど、もう一方から取り組むことが大切です。

真なる課題が分からないときは

自分の真なる課題がどちらなのか自分では分かりづらいときには、医師やカウンセラーとの対話の中でまず何から取り組んでいくかを決めると、自分では気づかなかった視点から解決の糸口を見つけることができるので、オススメです。

執筆者 関本 文博

臨床心理士、公認心理師
精神科・心療内科クリニックにて就労者や休職者の不安治療に従事。認知行動療法や応用行動分析など最先端の心理療法を駆使し、子育てから大人の発達障害まで幅広く社会適応の改善に取り組んでいる。