コラム

リワークのメリット・デメリット

うつ病や適応障害など診断され、休職していると主治医や産業医、人事からリワークをすすめられることがあります。
あるいはご自身で復職への不安からリワークを検討している場合もあるかもしれません。

しかし、リワークに通うメリットがわからないと利用するか判断できないと思います。
「リワークは行った方がいいの?本当に役に立つのかな?」
「リワークを受けないと復職は厳しいの?」
などメリットがわからず、困っている人の助けとなればと思い、
実際にリワーク支援をしている臨床心理士が「リワークに通うメリット・デメリット」についてまとめてみました。

*リワークには精神科や心療内科などの医療機関、私が所属しているような福祉施設、企業独自の復職支援プログラムなど様々な形態があります。
個別の事業所によっても、それぞれ特徴があります。
事業所ごとの強みなどは考慮いただいて、どこでも共通しているだろうと思われる点について紹介しています。

リワークに通う3つのメリット

  1. メンタルヘルスの向上
  2. 復職のハードルが下がる
  3. 復職してからも長く働ける

この3つのメリットについて、下で1つずつ詳しく解説していきます!

メリット1:メンタルヘルスの向上

まず最初に挙げたいのは、心身の健康面への効果です。

リワークに通うことで、生活リズムが安定します🐔
その人の状態によって様々ですが、週1回~2回の通所から始める人もいれば、はじめから週5回、通所する人もいます。
週1回の人も最終的には週5回の通所を目指します。
休職中に、どうしても不規則な生活スタイルになっている場合が少なくありません。
自宅で過ごす時間が長いのも悪い生活リズムに影響します。
定期的に通所し、日中活動をするだけでも生活リズムは整ってきます。

またスタッフも通所中の様子や生活面の聴き取りから、生活リズムを整えるための助言を行います。
事業所によって多少やり方は異なると思いますが、適切な睡眠、食事、運動などを促すプログラムを取り入れ、規則正しい生活を送れるよう支援しています。

心の健康にも効果が期待できます💛
心理教育や疾病教育を実施しているリワークもあり、ご自身のメンタル不調について理解を深めることができます。
認知行動療法やマインドフルネスといった心理療法のプログラムも行っているところもあるので、心の問題に対処するスキルを学べます。

相談できるスタッフがいるのも心強いです!!
担当者がつき、個別の面談に対応しているところもあります。
リワークのこと以外にも、復職への不安や対人関係の悩みなど相談される人もいます。
メンタル不調や休職にいたった経緯はセンシティブな内容が含まれます。
医療・福祉の専門スタッフが面談を担当するので、相談しやすいかと思います。

メリット2:復職のハードルが下がる

リワークに通うとなると一定期間の通所が必要です。
それゆえ、復職に向けた準備を整えることで職場復帰への自信がつくのでしょう。
なかなか一人では復職がすすまなかった人は、リワークがきっかけとなり、結果的に復職までの期間が短くなることも期待できます!

さて、海外の研究ですが、15週間のストレスマネジメント介入を受けたグループの方が、介入を受けていないグループより、復職できた割合の高いことが示唆されています。
介入を受けていないグループは復職していないわけですから、早く復職するためには介入プログラムを受けた方がよいということになります。

「復職について、介入グループに有効な傾向がみられた。ハザード比1.58(95% CI 0.89–2.81)(P=0.12)」。*原文”For return to work, a hazard ratio of 1.58 (95% CI 0.89–2.81) favoring the intervention group was found (P=0.12).”

Scandinavian Journal of Work, Environment & Health – Effects of a stress management intervention on absenteeism and return to work… (sjweh.fi)

ハザード比1.58は、大きな効果とは言いにくいのですが、効果が期待できるレベルであると考えてもらえるとよいです。

この研究の介入プログラムと内容の違いがあるにしても日本にあるリワークでも様々なストレスマネジメントのプログラムが用意されています。
リワークでも講義や個人面談を通じて、自分のストレスとなった要因を分析し、対処を考え実践していきます。

ちなみにリワークに通う目安となる期間は、施設や利用者の状態によって異なります。
短くて2か月、長くて6か月というところがおおよその目安として考えてみるとよいと思います⏰

メリット3:復職してからも長く働ける

うつ病や適応障害などのメンタル不調は、再発率の高いことで知られています。
例えば厚生労働省によると、うつ病の場合、約6割の人が再発するともいわれています。
再発すると再び休職になるため、復職後も長く働けるかはいかに再発予防するかが大事になります。

リワークには、再発予防に役立つプログラムが用意されています。
例えば、精神疾患についてまなんだり、ビジネストレーニングやジョブスキルトレーニングなどを通して、業務への取り組み方を再学習をします📝


リワークが就労継続に効果があるという客観的なデータを示した研究があります。

”リワークプログラム利用者に対し, 非利用者の再休職のハザード比は,2.871(p=0.009 95%CI1. 302-6. 331)であり,プログラム利用群の 就労継続性が良好であることが確認できた。”

リワークプログラムの現状と課題|日本労働研究雑誌 2018年6月号(No.695) (jil.go.jp)


通所期間が終了し復職した後も、事業所によっては定着支援やフォローアップ支援をしているところも増えています。
このような定着支援やフォローアップ支援を受けられるのも、復職後、長く働けるのに役立っていると思います。

リワークに通うメリットのまとめ

以上、メリットを3つにしぼって紹介しました。
「心身の健康を維持できるようになりたい」
「早く復職したい」
「復職後も元気に働き続けたい」
という人にとって、リワークのメリットが大きいでしょう🎵

リワークで働いているスタッフは医療や福祉の専門職です。
ストレスマネジメントプログラムや個別の相談を実施しているので、メンタルヘルスが良好になり、再発予防も期待できます。

リワークに通う3つのデメリット

  1. コストがかかる
  2. 個人情報を伝える過程で調子を崩すかもしれない
  3. 集団行動が苦手な人は合わない?

次にここに挙げた3つのリワークに通うデメリットについて、1つずつ詳しく解説します!

デメリット1:コストがかかる

どうしてもコストはかかります。
休職中の収入は、働いているときよりも少なくなるのが通常でしょう。
金銭的余裕があまりないという人も多いと思います。

かかるコストとして、ざっとあげてみると、

1.利用料

2.交通費

3.昼食費

ただし、利用料について医療機関の場合、自立支援医療制度を利用すると、1日の料金は1割負担になり、所得に応じて月ごとの上限金額が設定されます。
福祉施設の場合も、それぞれ所得に応じて月ごとの上限金額が設定されています。
利用料について、上限金額を超えることはありませんので、コストを抑えられます。

行き帰りの交通費のほか昼食費もかかります。
毎日、通いますので、積み重なることで負担に感じるかもしれません。
交通費が気になる場合は、家から近いリワーク施設を探すとよいかもしれません。

デメリット2:個人情報を伝える過程で調子を崩すかもしれない

支援者は利用者の情報を集めアセスメントし、支援計画を立てて、実行していきます。
その過程で、休職にいたる経緯、現在の生活状況など聴き取りを行います。

しかし、利用者の中には過去を思い出して体調を崩すケースがあります。
支援者から守秘義務は守られ、話したくないことは話さなくてよいと事前に伝えられていても、質問されるだけで刺激となりネガティブな感情や記憶が出てくることがあります。

そのときは、少しずつ話せる範囲から話したらいいですし、調子が悪くなるからと、どのように進めていけばよいか支援者に相談してみるとよいでしょう。
ネガティブな状態が出てくるのは決して悪いことではなく、心身の癒しや成長につながる大切なきっかけにもなります。

一方で、支援者に情報は一切伝えたくないという人は支援者と協力関係を築くのは難しいかもしれません。

デメリット3:集団行動が苦手な人は合わない?

リワークには、もちろん複数の利用者が参加しています。
一緒にグループワークをしたり、ときには相談相手として接することがあります。
似たような境遇の人もおられます。
そのような人たちとの関わりで、気持ちが軽くなったり励まされたりすることがあります。
しかし、周りのルールに合わせるのが苦手、集団行動が苦手という人はリワークで居心地の悪さを感じるかもしれません😰
集団に対してプログラムは実施されますし、そこには多少の譲り合いや配慮が求められます。

集団における苦手な部分が、そのまま職場のストレスの要因で、本人の課題となっているケースもあります。
職場とは違い、リワークは失敗してもかまわない、苦手なことに挑戦できる場です。
苦手と感じているコミュニケーションや集団行動に取り組むためにリワークに通われる利用者もおられます。

人の多いところにいるとどうしても気分が悪くなる。
集団で過ごすのに苦痛が大きい人は、1対1の個人カウンセリングなどでご自身を振り返りながら復職準備をすすめる方が合っているかもしれません。

リワークに通うデメリットのまとめ

以上、デメリットを3点あげました。
デメリットについてはそれを補う方法も合わせて紹介しました。

ここで挙げたデメリットのほかにリワークに対して疑問や不明点があるかもしれません。
やはり、直接事業所や役所に問い合わせてみるのがよいでしょう📞

事業所ごとにプログラムやスタッフに違いがあります。
見学や体験のできる事業所も増えています。
ご自身と合うかどうか、ここなら頑張ってやっていけそうかは、実際にその場に行ってみて検討してみることをオススメします。
合わないなと思ったらやめれば良いですし、しつこい勧誘をするようなところは鼻から断るのがよいでしょう。

リワークのメリット・デメリットをまとめてみた感想

リワークのメリットについてまとめようとするときに、客観的な資料とあわせて提示したいと考えました。
いざ、研究知見や論文を検索してみると、実証研究が少ないことがわかりました。
その中で、見つけたのがメリット2とメリット3のところで、紹介した2つの論文です。

ストレスマネジメントや集団認知行動療法がうつ病やストレス関連症状に効果があるというエビデンスはそろっているのですが、一定期間リワークに通った予後についての研究はまだまだ少ないようです。

休職者の方がより質の高いリワークプログラムを受けられるよう、リワークに関する研究がこれから増えることを期待しています。

私も、利用者のメリットを最大化できるように日々行っているプログラムを精査し研鑽を積みたいと、この記事を書いてみてあらためて思いました。

執筆者 星野 文弥

臨床心理士、公認心理師、EMDR Weekend2修了
EAP、ひきこもり支援センター、精神科病院などで臨床経験を積んだのち、ベスリ・リワーク大阪に勤務。臨床経験や心理学の専門知識を最大限にどう還元するかをモットーに、休職者のメンタルヘルス向上に努めている。