コラム

仕事の振り返りを一人で行うデメリット

あなたのことを一番よく観察できるのはあなたです。
職場の上司は職場のあなたのことしか知りませんが、あなた自身は「生活環境でのあなた」も「休日のあなた」も知っています。
もちろん、自分では気づいていない自分というものもありますが、それでも他の誰よりも長時間自分と過ごしているのは自分に他なりません

一人で行うことが多い「振り返り」

ですからビジネスパーソンは、日々の振り返りを自分ひとりで行うことが多くなります。

例えば、大事なプレゼンでミスをしてしまったときは「他の人からミスを指摘されなくても、ミスした箇所は明確だから」のように考えて振り返りを一人で行うでしょうし、客先で失敗してしまったときも「事情を知らない人に状況説明を一からし、その上でアドバイスをもらうのは面倒くさい」と考えて、一人で振り返りをすることもあるでしょう。

一人で行う振り返りの3つのデメリット

1.手間が省けても、悪循環のきっかけに

確かに、一人で振り返りをすれば、話し相手に「そう!それがしくじっていたことは自分が一番よく分かっている……」とわざわざ相槌を打つ必要はありませんし、話に過不足があってうまく伝わらなかったときに「いや、それは一年前にもこんなことがあって……」といった補足を差し挟む手間も省けます。

しかし、一人で行う振り返り気分や仕事の悪循環のきっかけになることもあるのです。

2.ネガティブな記憶を何度も反復してしまう

一人で振り返りをしているとき、脳は過去の情報を参照するために脳回路の一つである腹側回路を活性化させ、記憶を司る海馬をフル稼働させます。

これだけですと脳は正常に機能しているだけですが、振り返りによって過去の恥ずかしい感覚や落ち込んでいた感情まで思い出してしまうと、感情を司る扁桃体も反応してしまい、海馬と扁桃体の間で神経回路がループするような状態に陥ります。
ネガティブな記憶を思い出すと、同じようなことを何度も何度も反復して考えてしまうのはこの神経回路のループによるものです。

3.延々と脳のカロリーを消費していく

また、新たなアイディアやひらめきを生み出すときには、腹側回路ではなく背側回路という神経回路の活性化が必要になるため、ループしている間は「次どうすればいいか」といった新しい発想が出ることもなく、延々と脳のカロリーだけが浪費されていくことになってしまいます。

振り返りは、誰か別の人と行う

一人ではなく他の誰かと振り返りを行うことができれば、相手は当然振り返るべき過去の記憶がありませんので腹側回路が活性化しすぎることもなく、思考のループに陥らずに「次どうすればいいか」について考えを進めることができます。

皆さんも振り返りを行うときには、脳のカロリーが枯渇する前に誰か別の人と振り返るよう、心がけてみてください。

執筆者 関本 文博

臨床心理士、公認心理師
精神科・心療内科クリニックにて就労者や休職者の不安治療に従事。認知行動療法や応用行動分析など最先端の心理療法を駆使し、子育てから大人の発達障害まで幅広く社会適応の改善に取り組んでいる。